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氏名黙秘事件

最大判昭和32年2月20日

憲法38条1項は刑事責任を問われるおそれのある事項の供述強要を禁じたもので、氏名は原則として不利益な事項に当たらないとした判例

刑事訴訟法取調べ・供述の任意性人身の自由公判手続・証拠開示本試験で 5 問(短答 5・論文 0)

出題:司法R4・予備H30・予備R4

裁判所
最高裁判所大法廷
事件番号
昭和27(あ)838 威力業務妨害、公務執行妨害、傷害
裁判
判決・棄却
判例集
刑集 第11巻2号802頁
参照法条
憲法38条1項,憲法37条3項,憲法28条,刑訴法291条,刑訴規則18条,刑訴規則196条,刑訴規則197条

判示事項・裁判要旨

裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)

判示事項

一 憲法第三八条第一項の法意 二 氏名の黙秘権の有無 三 氏名黙秘の弁護人選任届の却下は憲法第三七条第三項第三八条第一項に違反するか 四 憲法第二八条の保障する団体行動に該当しない一事例

裁判要旨

一 憲法第三八条第一項は、何人も自己が刑事上の責任を問われる虞ある事項について供述を強要されないことを保障したものと解すべきである。 二 被告人の氏名の如きは原則として、不利益な事項ということはできず、それにつき黙秘する権利があるとはいえない。 三 被告人が氏名を黙秘し監房番号の自署、拇印等により自己を表示し、弁護人が署名押印した上提出した弁護人選任届を第一審裁判所が適法な弁護人選任届でないとして却下したため、被告人が結局その氏名を開示しなければならなくなつたとしても、その訴訟手続およびこれを認容した原判決が憲法第三八条第一項、第三七条第三項に反することにはならない。 四 労働組合員相互間において会社との交渉方針等を協議中、応援に来集した組合員以外の者が多数参加しその集団の威力を背景として業務に従事中の新聞記者又は警察職員の業務を妨げたような場合は、憲法第二八条の保障する団体行動に該当するといえない。

判決全文(裁判所ウェブサイト)

解説

事案

E株式会社は、労働組合の承諾を得て人員整理(いわゆるレッド・パージ)を発表した。これに反対する被整理者、組合の一部の者、外部の友誼団体員など約150名がF駅構内の労組本部に押しかけ、委員長らに承諾決議の取消しなどを要求した。委員長らが協議している間、一団は駅ホームで気勢をあげていた。この交渉の応援に来ていた被告人らは、集団の威力を背景に、業務中の新聞記者や警察職員に殴る蹴るの暴行を加えて傷害を負わせ、威力業務妨害・公務執行妨害・傷害で起訴された。

第一審で被告人らは氏名を黙秘した。監房番号の自署と拇印で自己を表示し、弁護人が署名押印した弁護人選任届を提出したが、不適法として却下された。裁判所が国選弁護人を選任したところ、被告人らは氏名を開示して私選弁護人選任届を出した。その後の審理は私選弁護人の立会いの下で行われた(被告人Bのみ第1回公判は国選弁護人立会い)。却下決定に対する特別抗告は取り下げられた。上告趣意は、この手続が憲法38条1項・37条3項に反すること、被告人らの行為が憲法28条の団体行動として保障されることを主張した。

争点

  • 憲法38条1項(不利益供述強要の禁止)の保障の範囲
  • 被告人に氏名を黙秘する憲法上の権利があるか
  • 氏名を黙秘した弁護人選任届の却下が憲法38条1項・37条3項に反するか
  • 組合員以外の者も参加した組合員相互間の交渉時の集団行動・暴行が憲法28条の団体行動として保障されるか

判旨

上告棄却(全員一致)。

  • 憲法38条1項の法意:文言は「自己に不利益な供述を強要されない」とするにとどまるが、制度の沿革に照らすと、何人も自己が刑事上の責任を問われるおそれのある事項について供述を強要されないことを保障したものである。
  • 氏名:氏名のようなものは、原則として同項にいう不利益な事項に当たらない。
  • 本件への当てはめ:本件は、氏名を黙秘した弁護人選任届が却下されたため、選任の必要上氏名を開示したにとどまる。開示が強要されたと認めるべき証跡もないから、憲法38条1項違反はない。
  • 憲法37条3項:私選弁護人立会いの下で審理が行われ、弁護権の行使が妨げられたとは認められないから、違反はない。
  • 憲法28条:組合員相互間の交渉のため、組合員以外の多数の者も参加してなされた集団行動は、同条の団体行動に当たらない。暴行罪・傷害罪等を構成する行為は、団体行動の際に行われたとしても正当化されない。

判決文から

「その法意は、何人も自己が刑事上の責任を問われる虞ある事項について供述を強要されないことを保障したものと解すべきであることは、この制度発達の沿革に徴して明らかである。」

38条1項の保障範囲を画する規範部分

「氏名のごときは、原則としてここにいわゆる不利益な事項に該当するものではない。」

氏名は原則として不利益事項でないとの結論

「その開示が強要されたものであることを認むべき証跡は記録上存在しない。」

強要の不存在も理由とした当てはめ

「被告人等においてその弁護権の行使を妨げられたとは認められない。」

37条3項違反を否定した理由

「判示の如き暴行罪、傷害罪等を構成するような行為はたとえそれが憲法二八条にいわゆる勤労者の団体行動の際行われたとしてもこれを正当化するいわれはない。」

暴力行為は28条で正当化されない

この解説は AI が作成しています。判決全文に基づいて書き、別の AI が全文と照合して確認していますが、誤りが残っている可能性があります。 判決文の引用は全文と一字一句照合したものだけを載せています。大事な点は判決全文で確かめてください。