二重抵当事件
抵当権設定後、登記未了の間に第三者へ抵当権を設定・登記して先の抵当権者の順位を後退させた行為に背任罪を認めた判例
出題:司法H28・司法R6・司法R8・予備R4
- 裁判所
- 最高裁判所第二小法廷
- 事件番号
- 昭和28(あ)3954 背任
- 裁判
- 判決・棄却
- 判例集
- 刑集 第10巻12号1592頁
- 参照法条
- 刑法247条
判示事項・裁判要旨
裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)
判示事項
いわゆる二重抵当は背任罪を構成するか
裁判要旨
甲に対し自己の不動産につき根抵当権設定後、いまだその登記なきを利用し、さらに乙に対して根抵当権を設定してその登記を了する所為は、甲に対する背任罪を構成する。
解説
事案
被告人は、自己の不動産について、甲(A)に対して根抵当権を設定した。Aは第一番抵当権者となるはずであった。ところが被告人は、その登記がまだされていないことを利用し、さらに乙に対して根抵当権を設定し、その登記を済ませた。その結果、Aの抵当権は後順位の二番抵当権になった。
原審(札幌高裁函館支部)は、Aに対する背任罪(刑法247条)の成立を認めた。弁護人は次の点を主張して上告した。
- 抵当権設定登記の義務は設定者固有の事務であり、「他人の事務」ではない。
- 原審は、抵当物件の価額と両根抵当による借入債務額との関係を審査しないまま財産上の損害を認めた。
- 二重に抵当権を設定した行為を詐欺罪とした大審院判例に違反する。
争点
- 抵当権設定者の登記協力義務は「他人のためにその事務を処理する」ものに当たるか(刑法247条の主体)
- 先順位となるべき抵当権を後順位に後退させたことが「財産上の損害」に当たるか、また物件価額と債務額の比較を要するか
- いわゆる二重抵当は背任罪を構成するか
判旨
上告棄却。二重抵当は先の抵当権者に対する背任罪を構成する。
- 主体(他人の事務):抵当権設定者は、登記を完了するまでは抵当権者に協力する任務を負う。この任務は主として他人である抵当権者のために負うものである。したがって設定者は「他人のためにその事務を処理する者」に当たる。
- 財産上の損害:抵当権の順位は、抵当物件の価額からどの抵当権が優先して弁済を受けるかという財産上の利害に関する問題である。そのため、一番抵当権を後順位の二番抵当権にしたこと自体が、刑法247条の損害に当たる。
- 損害の認定にあたって、犯罪時の抵当物件の価額と借入債務額との関係を審査する必要はない。そうした審査の結果は犯罪の成否に影響しない。
判決文から
「これを完了するまでは、抵当権者に協力する任務を有することはいうまでもないところであり、右任務は主として他人である抵当権者のために負うものといわなければならない。」
登記協力義務を「他人の事務」とした核心部分
「抵当権の順位は当該抵当物件の価額から、どの抵当権が優先して弁済を受けるかの財産上の利害に関する問題であるから」
順位の後退を財産上の利害と捉える理由
「本件被告人の所為たるAの一番抵当権を、後順位の二番抵当権たらしめたことは、既に刑法二四七条の損害に該当するものといわなければならない。」
順位後退それ自体で損害を肯定
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