最判昭和23年6月5日
贈賄資金として預かった金銭の着服について、民法708条で給付者に返還請求権がなくても横領罪が成立するとした判例
出題:司法H29・司法R8
- 裁判所
- 最高裁判所第二小法廷
- 事件番号
- 昭和23(れ)89 横領
- 裁判
- 判決・棄却
- 判例集
- 刑集 第2巻7号641頁
- 参照法条
- 民法708條,刑法252條,刑法25條
判示事項・裁判要旨
裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)
判示事項
一 贈賄のためその資金を預かつた者の領得行爲と横領罪 二 特殊の情状ある場合と刑の執行猶豫の要否
裁判要旨
一 不法原因の爲め給付をした者はその給付したものの返還を請求することができないことは、民法第七〇八條の規定するところであるが刑法第二五二條第一項の横領罪の目的物は單に犯人の占有する他人の物であることを要件としているのであつて必ずしも物の給付者において民法上その返還を請求し得べきものであることを要件としていないのである。 二 執行猶豫を言渡すや否やは事實審たる原審の自由裁量に屬することであつて論旨記載の如き情状(智識階級に屬し性質温厚、家計の困難、改悛の情顯著)のある場合には執行猶豫の言渡を爲すことを要するものであると解することはできない。
解説
事案
被告人は昭和21年5月28日頃、原審相被告人A・Bから金2万2000円を受け取った。A・Bは自分たちの収賄行為を隠すため、上司である岩国警察署司法主任等を買収しようとしており、その買収資金として渡したものである。被告人はこれを保管中、同年6月1日頃から中旬頃までの間に、犯意を継続して数回にわたり、うち2万円を自分のモルヒネ買入代金等に費消した。
原審(広島高裁)は刑法252条1項の横領罪で有罪とした。弁護人は次の2点を主張して上告した。
- 本件の給付は民法708条の不法原因給付であり、A・Bは返還請求権を持たない。したがって被告人は金員を自由に処分できる地位にあり、横領罪は成立しない。金銭は委託と同時に所有権が受託者に移るのが通常であり、不法原因給付物の着服に横領罪を認めた大審院判例は変更されるべきである。
- 被告人の情状に照らせば、刑法25条により執行猶予を言い渡すべきである。
争点
- 不法原因給付(民法708条)として交付された物を受領者が領得した場合に、横領罪(刑法252条1項)が成立するか
- 金銭のような代替物を預かった場合に、それが受領者にとって「他人の物」といえるか
- 一定の情状がある場合に、執行猶予の言渡しが義務的となるか
判旨
上告棄却。横領罪が成立する。
規範:横領罪(刑法252条1項)の目的物は、単に犯人の占有する他人の物であることを要件とする。物の給付者が民法上その返還を請求できるものであることは要件としない。
あてはめ
- 被告人は他に贈賄する目的で本件金員をA・Bから受け取り、保管していた。そのため、被告人の占有に帰した本件金員は被告人の物とはいえない。
- 金銭のような代替物だからといって、直ちに被告人の財物と断定することもできない。
- よって本件金員は被告人の占有する他人の物である。給付者が民法上返還を請求できるか否かを問わず、これを自己の用途に費消した以上、横領罪が成立する。
執行猶予:執行猶予を言い渡すかどうかは事実審の自由裁量に属する。智識階級に属し性質温厚、家計の困難、改悛の情顕著といった情状があっても、執行猶予を言い渡す必要があるとは解されない。
判決文から
「刑法第二百五十二条第一項の横領罪の目的物は単に犯人の占有する他人の物であることを要件としているのであつて必ずしも物の給付者において民法上その返還を請求し得べきものであることを要件としていないのである」
横領罪の客体の要件を示した中心規範
「金銭の如き代替物であるからといつて直ちにこれを被告人の財物であると断定することもできない」
金銭の所有権が当然に受託者へ移る論法を否定
「執行猶予を言渡すや否やは事実審たる原審の自由裁量に属することであつて」
執行猶予は裁量であり義務的でないこと
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