病院長自殺事件
国会議員の質疑等での名誉毀損発言について、議員個人の責任を否定し、国の国賠責任は特別の事情がある場合に限るとした判例
出題:司法H25・司法R4・予備R5
- 裁判所
- 最高裁判所第三小法廷
- 事件番号
- 平成6(オ)1287 損害賠償
- 裁判
- 判決・棄却
- 判例集
- 民集 第51巻8号3850頁
- 参照法条
- 国家賠償法1条1項,民法710条,憲法51条,衆議院規則45条1項
判示事項・裁判要旨
裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)
判示事項
国会議員が国会の質疑等の中でした発言と国家賠償責任
裁判要旨
国会議員が国会の質疑、演説、討論等の中でした個別の国民の名誉又は信用を低下させる発言につき、国家賠償法一条一項の規定にいう違法な行為があったものとして国の損害賠償責任が肯定されるためには、当該国会議員が、その職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示し、あるいは、虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示するなど、国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したものと認め得るような特別の事情があることを必要とする。
解説
事案
昭和60年11月21日の衆議院社会労働委員会で、委員である衆議院議員Bが医療法改正案の審議中に札幌市のE病院の問題を取り上げた。Bは、院長Dが5名の女性患者に破廉恥な行為をした、薬物を常用するなど通常の精神状態ではないのではないか、現行行政ではこのような医師をチェックできないのではないか、などと発言した。発言の趣旨は、患者の人権擁護の見地から、問題のある病院に対する所管行政庁の十分な監督を求めることにあった。
Dの妻Xは、本件発言でDの名誉が毀損され、Dが自殺に追い込まれたと主張した。そのうえで、Bに対しては民法709条・710条に基づき、国に対しては国家賠償法1条に基づき、損害賠償を求めた。原審は請求を排斥し、Xが上告した。
争点
- 国会議員が職務として行った発言について、議員個人が被害者に対し損害賠償責任を負うか(憲法51条の免責との関係)
- 国会議員の質疑等における発言が、国家賠償法1条1項の「違法」と評価されるのはどのような場合か
判旨
上告棄却(X敗訴)。
- 議員個人の責任:本件発言は、国会議員としての職務を行うにつきされたことが明らかである。したがって、仮に故意・過失による違法な行為であっても、責任を負いうるのは国であり、公務員である議員個人は被害者に対し責任を負わない。そのため、本件発言が憲法51条の「演説、討論又は表決」に当たるかどうかを論じるまでもない。
- 国の責任(規範):国会議員が質疑等で個別の国民の名誉・信用を低下させる発言をしても、それだけで当然に国賠法1条1項の違法となるわけではない。違法となるには、当該議員が職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示し、あるいは虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示するなど、付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したと認め得る特別の事情が必要である。
- あてはめ:本件発言は法律案の審議という職務に関係しており、違法・不当な目的は認められず、内容が虚偽とも認められない。よって国の責任も否定される。
判決文から
「仮に本件発言が被上告人Bの故意又は過失による違法な行為であるとしても、被上告人国が賠償責任を負うことがあるのは格別、公務員である被上告人B個人は、上告人に対してその責任を負わないと解すべきである」
議員個人責任を国賠法の公務員個人責任否定で処理
「多数決原理により国家意思を形成する行為そのものではなく、国家意思の形成に向けられた行為である。」
質疑等を立法行為そのものと区別した点
「質疑等においてどのような問題を取り上げ、どのような形でこれを行うかは、国会議員の政治的判断を含む広範な裁量にゆだねられている事柄とみるべきであって」
質疑等に広範な裁量を認める根拠
「その職務とはかかわりなく違法又は不当な目的をもって事実を摘示し、あるいは、虚偽であることを知りながらあえてその事実を摘示するなど、国会議員がその付与された権限の趣旨に明らかに背いてこれを行使したもの」
国賠違法となる「特別の事情」の中身
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