最判平成9年2月14日
注文者は、信義則に反する場合を除き、修補に代わる損害賠償を受けるまで報酬全額の支払を拒め、履行遅滞責任も負わない
出題:司法H22・司法H23・司法H26・司法H27・司法H29・司法H30・司法R5・司法R6・司法R8・予備H23・予備H27・予備H30・予備R7
- 裁判所
- 最高裁判所第三小法廷
- 事件番号
- 平成5(オ)1924 工事代金
- 裁判
- 判決・棄却
- 判例集
- 民集 第51巻2号337頁
- 参照法条
- 民法1条2項,民法412条,民法533条,民法634条
判示事項・裁判要旨
裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)
判示事項
請負契約の注文者が瑕疵の修補に代わる損害賠償債権をもって報酬全額の支払との同時履行を主張することの可否
裁判要旨
請負契約の目的物に瑕疵がある場合には、注文者は、瑕疵の程度や各契約当事者の交渉態度等にかんがみ信義則に反すると認められるときを除き、請負人から瑕疵の修補に代わる損害の賠償を受けるまでは、報酬全額の支払を拒むことができ、これについて履行遅滞の責任も負わない。
解説
事案
請負人Xは、注文者Yとの間で、Yの納屋を解体して新たに住居を建築する工事の請負契約を結んだ。工事代金は1650万円、支払遅滞の違約金は1日当たり未払額の1000分の1とされた。Xは工事を完成させて引き渡し、追加工事も行った。既払分を控除した残代金は1184万4147円であった。
ところが建物には10箇所の瑕疵があり、修補費用は合計132万1300円であった。瑕疵には、次のようなものが含まれていた。
- 二階和室の床の中央が盛り上がり、障子・サッシの開閉が困難になっている
- コンクリート張りの予定の床が、Yに無断で強度の劣るモルタルで施工され、厚さ不足で亀裂が生じている
- 設置予定の差掛け小屋が未設置である
Yは引渡し後、Xと協議を重ねた。Xが代金減額による処理を申し出た後、Yは残代金の約1割を修補費用とみて1000万円を支払う解決案を提示し、その金額を代理人弁護士に預けて交渉させた。Xはこれを拒否したが、具体的な対案は示さなかった。交渉は決裂し、Xは間もなく残代金と約定遅延損害金の支払を求めて提訴した。
Yは修補に代わる損害賠償債権との同時履行の抗弁を主張した。Xは、同時履行は損害賠償額の範囲に限られ、全額について主張するのは信義則違反・権利濫用だと争った。原審は、損害賠償債権のうち82万4000円と引換えに残代金を支払うよう命じた。
争点
- 修補に代わる損害賠償債権と報酬債権の同時履行(旧民法634条2項・533条)において、注文者が支払を拒める範囲は損害賠償額相当分に限られるか、報酬残額全額に及ぶか
- 同時履行の抗弁を主張している間、注文者は報酬支払について履行遅滞責任を負うか
- 全額についての同時履行の主張が信義則(民法1条2項)に反するとされるのはどのような場合か
判旨
上告棄却。全額についての同時履行の抗弁を認めた原審判断を是認した。
規範
- 仕事の目的物に瑕疵があり、注文者が修補に代わる損害賠償を求めたが、相殺の意思表示がされなかった場合(またはその効果が生じない場合)には、損害賠償債権と報酬債権は同時履行の関係に立つ(旧民法634条2項)。
- 注文者は、損害賠償を受けるまで報酬残債権全額の支払を拒むことができ、履行遅滞責任も負わない。
- ただし、瑕疵の程度や各契約当事者の交渉態度等に鑑み、全額の支払拒絶が信義則に反すると認められるときは、この限りでない。
- 瑕疵が重要でなく修補に過分の費用を要する場合(旧634条1項但書)でも、全額の同時履行が当然に肯定されるわけではない。他の事情も併せ考慮し、信義則により否定されることがある。
- 契約が目的の異なる複数の仕事を含み、瑕疵が一部の仕事にのみある場合は、同時履行関係はその仕事部分に相当する報酬額についてのみ認められる。
あてはめ
住居新築という契約目的に照らし、本件瑕疵は重要でないとはいえず、修補に過分の費用を要するともいえない。交渉経緯も勘案すれば、全額についての同時履行の主張は信義則に反しない。
判決文から
「民法六三四条二項により右両債権は同時履行の関係に立ち、契約当事者の一方は、相手方から債務の履行を受けるまでは、自己の債務の履行を拒むことができ、履行遅滞による責任も負わないものと解するのが相当である。」
同時履行と履行遅滞責任の否定という原則
「瑕疵の程度や各契約当事者の交渉態度等に鑑み、右瑕疵の修補に代わる損害賠償債権をもって報酬残債権全額の支払を拒むことが信義則に反すると認められるときは、この限りではない。」
全額拒絶の信義則による限界と考慮要素
「注文者が同条一項に基づいて瑕疵の修補の請求を行った場合と均衡を失し、瑕疵ある目的物しか得られなかった注文者の保護に欠ける一方、瑕疵が軽微な場合においても報酬残債権全額について支払が受けられないとすると請負人に不公平な結果となるからである」
原則と例外それぞれの実質的理由
「信義則上、同時履行関係は、瑕疵の存在する仕事部分に相当する報酬額についてのみ認められ」
複数の仕事を含む契約での範囲の限定
この解説は AI が作成しています。判決全文に基づいて書き、別の AI が全文と照合して確認していますが、誤りが残っている可能性があります。 判決文の引用は全文と一字一句照合したものだけを載せています。大事な点は判決全文で確かめてください。
