ノンフィクション「逆転」事件
私人が著作物で実名を使って前科を公表した行為について、比較衡量によって不法行為の成立を認めた判例
出題:司法H28・司法H30・司法R3・司法R7・司法R8・予備R5
- 裁判所
- 最高裁判所第三小法廷
- 事件番号
- 平成1(オ)1649 慰藉料
- 裁判
- 判決・棄却
- 判例集
- 民集 第48巻2号149頁
- 参照法条
- 民法709条,民法710条
判示事項・裁判要旨
裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)
判示事項
ある者の前科等にかかわる事実が著作物で実名を使用して公表された場合における損害賠償請求の可否
裁判要旨
ある者の前科等にかかわる事実が著作物で実名を使用して公表された場合に、その者のその後の生活状況、当該刑事事件それ自体の歴史的又は社会的な意義その者の事件における当事者としての重要性、その者の社会的活動及びその影響力について、その著作物の目的、性格等に照らした実名使用の意義及び必要性を併せて判断し、右の前科等にかかわる事実を公表されない法的利益がこれを公表する理由に優越するときは、右の者は、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができる。
解説
事案
昭和39年、米国統治下の沖縄で、Xら4名と米兵2名が喧嘩をし、米兵1名が死亡、1名が負傷した。Xらは琉球列島民政府高等裁判所で陪審裁判を受け、死亡した米兵に対する傷害罪で有罪となった。Xは懲役3年の実刑判決を受けて服役した。
Xは仮出獄後に上京してバス会社の運転手となり、結婚したが、会社にも妻にも前科を隠していた。本土では事件の報道がなく、Xの周囲に前科を知る者はいなかった。
この裁判の陪審員の一人であったYは、その体験に基づいてノンフィクション作品「逆転」を執筆した。同書は昭和52年に刊行され、高い評価を受けて賞も受賞した。Yは同書でXの実名を使用していた。
Xは、前科にかかわる事実を公表されて精神的苦痛を被ったとして、Yに慰謝料300万円を請求した(民法709条、710条)。一審は50万円の限度で認容し、原審もYの控訴を棄却した。Yが上告した。
争点
- 前科等にかかわる事実をみだりに公表されない利益は、法的保護に値するか。私人による公表の場合も同じか
- 著作物で実名を使って前科を公表したことが不法行為になるかの判断基準
- 前科公表に不法行為責任を認めることは、表現の自由(憲法21条1項)を不当に制限するか
判旨
結論:上告棄却。Yの不法行為責任を認めた原審の判断を是認した。
規範
- 前科等は名誉・信用に直接かかわる事項である。そのため、人は前科等にかかわる事実をみだりに公表されないことにつき法的保護に値する利益をもつ。この理は、公表するのが公的機関でも私人・私的団体でも変わらない。
- 有罪判決を受けた後や服役を終えた後の者は、新しく形成している社会生活の平穏を害されその更生を妨げられない利益をもつ。
- 実名を使った著作物での前科公表が不法行為になるかは、次の要素を判断し、さらに著作物の目的・性格等に照らした実名使用の意義及び必要性をあわせて判断する。
- その者のその後の生活状況
- 事件自体の歴史的・社会的意義
- 事件におけるその者の当事者としての重要性
- その者の社会的活動とその影響力
- その結果、公表されない法的利益が公表する理由に優越するときは、公表によって被った精神的苦痛の賠償を請求できる。
- このように解しても、表現の自由を不当に制限するものではない。
判決文から
「その者は、みだりに右の前科等にかかわる事実を公表されないことにつき、法的保護に値する利益を有するものというべきである」
前科を公表されない利益の法的保護性を肯定した部分
「この理は、右の前科等にかかわる事実の公表が公的機関によるものであっても、私人又は私的団体によるものであっても変わるものではない。」
公表主体を問わないとした点。短答で問われる
「その者は、前科等にかかわる事実の公表によって、新しく形成している社会生活の平穏を害されその更生を妨げられない利益を有するというべきである。」
更生の利益という独自の保護利益を示した部分
「前科等にかかわる事実を公表されない法的利益が優越するとされる場合には、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができる」
比較衡量の結論部分。答案の規範になる
「表現の自由は、十分に尊重されなければならないものであるが、常に他の基本的人権に優越するものではなく」
表現の自由の優越を否定し、違憲の主張を退けた根拠
この解説は AI が作成しています。判決全文に基づいて書き、別の AI が全文と照合して確認していますが、誤りが残っている可能性があります。 判決文の引用は全文と一字一句照合したものだけを載せています。大事な点は判決全文で確かめてください。
