テニスコート審判台事件
本来の用法では安全な審判台を、幼児が通常予測し得ない異常な方法で使って起きた事故につき、国賠法2条1項の責任を否定した
出題:司法H23・司法H25・司法R8・予備H25・予備H29
- 裁判所
- 最高裁判所第三小法廷
- 事件番号
- 昭和61(オ)315 損害賠償請求事件
- 裁判
- 判決・破棄自判
- 判例集
- 民集 第47巻4号3226頁
- 参照法条
- 国家賠償法2条1項
判示事項・裁判要旨
裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)
判示事項
幼児が公の営造物を設置管理者の通常予測し得ない異常な方法で使用して生じた事故につき設置管理者が損害賠償責任を負わないとされた事例
裁判要旨
幼児が、テニスの審判台に昇り、その後部から座席部分の背当てを構成している左右の鉄パイプを両手で握つて降りようとしたために転倒した審判台の下敷きになつて死亡した場合において、当該審判台には、本来の用法に従つて使用する限り、転倒の危険がなく、右幼児の行動が当該審判台の設置管理者の通常予測し得ない異常なものであつたなど判示の事実関係の下においては、設置管理者は、右事故につき、国家賠償法二条一項所定の損害賠償責任を負わない。
解説
事案
昭和56年8月、Bは弟・甥と、上告人町が設置する町立G中学校の校庭内のテニスコートでテニスをしていた。長男F(当時5歳)は球拾いをしたり校庭を走り回ったりして遊んでいたが、コート脇に置かれた審判台に前部階段から昇った。そして座席の背当てを構成する左右の鉄パイプを両手で握り、後部から降りようとした。そのため審判台が後方に倒れ、Fは下敷きとなり、後頭部を強打して脳挫傷で死亡した。
- 審判台は座席の高さ約1.4m、背当て最上部まで約1.8m、重量約24kgの鉄製である。後部支柱はほぼ垂直であった。
- 前部階段で普通に昇り降りする本来の用法では転倒の危険はなかった。設置後20年余り人身事故はなく、倒れたのは生徒がふざけて後方に引っ張った1回だけであった。
- 校庭には門扉がなく、近所の子供や家族連れの遊び場として事実上開放されていた。
Bらは町に対し国家賠償法2条1項に基づく損害賠償を請求した。第一審と原審(仙台高裁)は、幼児が背当てをジャングルジムのように使い審判台が倒れることは設置管理者に通常予測し得たとして、請求を一部認容した。町が上告した。
争点
- 国家賠償法2条1項の「設置又は管理に瑕疵」の意義と判断方法
- 営造物の本来の用法に反する、通常予測し得ない異常な使用によって生じた事故について、設置管理者は責任を負うか
- 一般市民に事実上開放された公立学校校庭の設備について、設置管理者の安全確保責任はどこまで及ぶか
判旨
原判決中、町の敗訴部分を破棄し、第一審判決を取り消して、請求を棄却した(破棄自判)。
- 規範:国賠法2条1項の「設置又は管理に瑕疵」とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう。その有無は、営造物の構造、本来の用法、場所的環境及び利用状況等の諸般の事情を総合考慮し、具体的・個別的に判断する。
- 通常有すべき安全性の有無は、本来の用法に従った使用を前提として、危険発生の可能性があるかによって決まる。
- 本来の用法に従えば安全な営造物を、設置管理者の通常予測し得ない異常な方法で使用しない注意義務は、利用者側が負う。幼児に異常な行動をさせない注意義務は、第一次的には保護者にある。
- あてはめ:Fの行動は極めて異常で、通常予測し得ないものであった。本件事故は審判台の安全性の欠如ではなくFの異常な行動に起因するから、町は国賠法2条1項の責任を負わない。
判決文から
「国家賠償法二条一項にいう「公の営造物の設置又は管理に瑕疵」があるとは、公の営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい」
瑕疵の定義。答案の規範の出発点
「右の安全性を欠くか否かの判断は、当該営造物の構造、本来の用法、場所的環境及び利用状況等諸般の事情を総合考慮して具体的、個別的に判断すべきである」
瑕疵の判断で考慮する要素を列挙した部分
「審判台の通常有すべき安全性の有無は、この本来の用法に従った使用を前提とした上で、何らかの危険発生の可能性があるか否かによって決せられるべきものといわなければならない。」
安全性は本来の用法を前提に判断するとした
「幼児がいかなる行動に出ても不測の結果が生じないようにせよというのは、設置管理者に不能を強いるものといわなければならず」
設置管理者に絶対的な安全確保は求めない
「本来の用法に従えば安全である営造物について、これを設置管理者の通常予測し得ない異常な方法で使用しないという注意義務は、利用者である一般市民の側が負うのが当然であり」
異常な使用の危険は利用者側に分配した
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