箕面忠魂碑・慰霊祭訴訟
忠魂碑の移設・敷地の無償貸与と教育長の慰霊祭参列を目的効果基準で合憲とし、遺族会は89条の宗教団体に当たらないとした判例
出題:司法H24・司法R4・予備H27
- 裁判所
- 最高裁判所第三小法廷
- 事件番号
- 昭和62(行ツ)148 運動場一部廃止決定無効確認等、同附帯及び慰霊祭支出差止
- 裁判
- 判決・棄却
- 判例集
- 民集 第47巻3号1687頁
- 参照法条
- 憲法20条,憲法89条,地方自治法153条1項,地方自治法242条の2第1項4号
判示事項・裁判要旨
裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)
判示事項
一 市が忠魂碑の存する公有地の代替地を買い受けて右忠魂碑の移設・再建をした行為及び右忠魂碑を維持管理する地元の戦没者遺族会に対しその敷地として右代替地を無償貸与した行為が憲法二〇条三項により禁止される宗教的活動には当たらないとされた事例 二 財団法人D会及びその支部と憲法二〇条一項後段にいう「宗教団体」及び憲法八九条にいう「宗教上の組織若しくは団体」 三 市の教育長が地元の戦没者遺族会が忠魂碑前で神式又は仏式で挙行した各慰霊祭に参列した行為が憲法上の政教分離原則及び憲法二〇条、八九条に違反しないとされた事例 四 自己の権限に属する財務会計上の行為を吏員に委任した普通地方公共団体の長と地方自治法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」 五 自己の権限に属する財務会計上の行為を吏員に委任した普通地方公共団体の長の損害賠償責任
裁判要旨
一 市が忠魂碑の存する公有地の代替地を買い受けて右忠魂碑の移設、再建をした行為及び右忠魂碑を維持管理する地元の戦没者遺族会に対しその敷地として右代替地を無償貸与した行為は、右忠魂碑が、元来、戦没者記念碑的性格のものであり、特定の宗教とのかかわりが少なくとも戦後においては希薄であること、右戦没者遺族会が宗教的活動をすることを本来の目的とする団体ではないこと、市が右移設、再建等を行つた目的が、右忠魂碑の存する公有地を学校用地として利用することを主眼とするもので、専ら世俗的なものであることなど判示の事情の下においては、いずれも憲法二〇条三項により禁止される宗教的活動には当たらない。 二 財団法人D会及びその支部は、憲法二〇条一項後段にいう「宗教団体」、憲法八九条にいう「宗教上の組織若しくは団体」に該当しない。 三 市の教育長が地元の戦没者遺族会が忠魂碑前で神式又は仏式で挙行した各慰霊祭に参列した行為は、右忠魂碑が、元来、戦没者記念碑的性格のものであること、右戦没者遺族会が宗教的活動をすることを本来の目的とする団体ではないこと、右参列の目的が戦没者遺族に対する社会的儀礼を尽くすという専ら世俗的なものであることなど判示の事情の下においては、憲法上の政教分離原則及び憲法二〇条、八九条に違反しない。 四 普通地方公共団体の長は、その権限に属する財務会計上の行為をあらかじめ特定の吏員に委任している場合であつても、右委任により処理された財務会計上の行為の適否が問題とされている代位請求住民訴訟において、地方自治法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」に該当する。 五 普通地方公共団体の長の権限に属する財務会計上の行為を、委任を受けた吏員が処理した場合は、長は、右吏員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は過失により右吏員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかつたときに限り、普通地方公共団体が被つた損害につき賠償責任を負う。 (一、三につき補足意見がある。)
解説
事案
大正5年、在郷軍人会の分会が村役場の敷地内に忠魂碑を建て、村から敷地の無償貸与を受けた。戦後、碑石は一時地中に埋められたが、遺族会が再建した。以後、市遺族会の下部組織である地区遺族会が碑を清掃・管理し、碑前で神式・仏式を隔年交替で慰霊祭を行ってきた。
箕面市は、隣接するH小学校の校舎建替え・校庭拡張のため、碑の敷地を学校用地に編入する必要に迫られた。そこで市遺族会と交渉し、土地開発公社から代替地を約7883万円で買い受けた(本件売買)。市は碑を代替地に移設・再建し(本件移設・再建)、市議会の議決を経て、市遺族会に敷地を無償で貸し付けた(本件貸与)。
また、市の教育長は地区遺族会の招待を受け、昭和51年の神式慰霊祭では玉串を捧げ、翌年の仏式慰霊祭では焼香した。
住民らは住民訴訟(地方自治法242条の2)を提起し、これらの行為が憲法20条・89条に違反すると主張した。あわせて、市長が慰霊祭のために市の財産(会議室・バス等)を使わせたことによる損害賠償も求めた。
争点
- 代替地の買受け・忠魂碑の移設再建・敷地の無償貸与は憲法20条3項の「宗教的活動」に当たるか
- 遺族会は憲法20条1項後段の「宗教団体」、89条の「宗教上の組織若しくは団体」に当たるか
- 教育長の神式・仏式慰霊祭への参列は政教分離原則(憲法20条・89条)に違反するか
- 財務会計上の行為を吏員に委任した長は、地方自治法242条の2第1項4号の「当該職員」に当たるか。また、長はどのような場合に損害賠償責任を負うか
判旨
上告棄却(移設・貸与・慰霊祭参列はいずれも合憲とされた)。
目的効果基準:津地鎮祭判決・自衛官合祀判決を引用する。20条3項の宗教的活動とは、かかわり合いが相当とされる限度を超えるもの、すなわち目的が宗教的意義を持ち、効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になる行為をいう。外形にとらわれず、諸般の事情を考慮して社会通念に従い客観的に判断する。
あてはめ:本件売買・本件移設・再建・本件貸与は、いずれも20条3項の宗教的活動に当たらない。目的は学校用地の確保という専ら世俗的なもので、効果も特定宗教の援助等ではないからである。
宗教団体の意義:20条1項後段の「宗教団体」、89条の「宗教上の組織若しくは団体」とは、特定の宗教の信仰、礼拝又は普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体をいう。日本遺族会及びその支部(市遺族会・地区遺族会)はこれに当たらない。
慰霊祭参列:教育長の参列は、戦没者遺族に対する社会的儀礼という専ら世俗的目的によるもので、合憲である。
住民訴訟:長は、財務会計上の行為を吏員に委任していても4号の「当該職員」に当たる。ただし損害賠償責任を負うのは、吏員の違法行為を阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は過失により阻止しなかったときに限られる。
判決文から
「当該行為の目的が宗教的意義を持ち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為をいうものと解すべきであり」
目的効果基準の定式
「特定の宗教の信仰、礼拝又は普及等の宗教的活動を行うことを本来の目的とする組織ないし団体を指すものと解するのが相当である。」
89条・20条1項後段の宗教団体の定義
「その目的は、地元の戦没者の慰霊、追悼のための宗教的行事に際し、戦没者遺族に対する社会的儀礼を尽くすという、専ら世俗的なものであり」
参列を社会的儀礼として世俗的目的と評価
「右財務会計上の行為を行う権限を法令上本来的に有するものとされている以上、右財務会計上の行為の適否が問題とされている当該代位請求住民訴訟において、同法二四二条の二第一項四号にいう「当該職員」に該当するものと解すべきである。」
委任しても長は当該職員に当たる
「長は、右吏員が財務会計上の違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し、故意又は過失により右吏員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったときに限り」
委任した長の責任要件の限定
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