国旗国歌予防訴訟
差止訴訟の「重大な損害」の規範を示し、職務命令に基づく義務の不存在確認を実質的当事者訴訟として適法とした判決
出題:司法H25・司法R7・予備H27・予備H29・予備R4・予備R5
- 裁判所
- 最高裁判所第一小法廷
- 事件番号
- 平成23(行ツ)177等 国歌斉唱義務不存在確認等請求事件
- 裁判
- 判決・棄却
- 判例集
- 民集 第66巻2号183頁
- 参照法条
- (1〜3につき)行政事件訴訟法3条7項,行政事件訴訟法37条の4第1項,地方公務員法29条1項,(1,2につき)行政事件訴訟法37条の4第2項,(3につき)行政事件訴訟法3条1項,(4につき)行政事件訴訟法4条,地方公務員法40条1項
判示事項・裁判要旨
裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)
判示事項
1 処分の差止めの訴えについて行政事件訴訟法37条の4第1項所定の「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められる場合 2 公立高等学校等の教職員が卒業式等の式典における国歌斉唱時の起立斉唱等に係る職務命令の違反を理由とする懲戒処分の差止めを求める訴えについて行政事件訴訟法37条の4第1項所定の「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められた事例 3 公立高等学校等の教職員が卒業式等の式典における国歌斉唱時の起立斉唱等に係る職務命令に基づく義務の不存在の確認を求める訴えについていわゆる無名抗告訴訟としては不適法であるとされた事例 4 公立高等学校等の教職員が卒業式等の式典における国歌斉唱時の起立斉唱等に係る職務命令に基づく義務の不存在の確認を求める訴えについて公法上の法律関係に関する確認の訴えとして確認の利益があるとされた事例
裁判要旨
1 処分の差止めの訴えについて行政事件訴訟法37条の4第1項所定の「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められるためには,処分がされることにより生ずるおそれのある損害が,処分がされた後に取消訴訟又は無効確認訴訟を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものではなく,処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なものであることを要する。 2 公立高等学校等の教職員が卒業式等の式典における国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱すること又はピアノ伴奏をすることを命ずる旨の校長の職務命令の違反を理由とする懲戒処分の差止めを求める訴えについて,次の(1),(2)など判示の事情の下では,行政事件訴訟法37条の4第1項所定の「重大な損害を生ずるおそれ」があると認められる。 (1) 当該地方公共団体では,教育委員会が各校長に対し上記職務命令の発出の必要性を基礎付ける事項等を示達した通達を踏まえ,多数の公立高等学校等の教職員が,毎年度2回以上の各式典に際し,上記職務命令を受けている。 (2) 上記職務命令に従わない教職員については,過去の懲戒処分の対象と同様の非違行為を再び行った場合には処分を加重するという方針の下に,おおむね,その違反が1回目は戒告,2,3回目は減給,4回目以降は停職という処分量定に従い,懲戒処分が反復継続的かつ累積加重的にされる危険がある。 3 公立高等学校等の教職員が卒業式等の式典における国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱すること又はピアノ伴奏をすることを命ずる旨の校長の職務命令に基づく義務の不存在の確認を求める訴えは,上記職務命令の違反を理由としてされる蓋然性のある懲戒処分の差止めの訴えを法定の類型の抗告訴訟として適法に提起することができ,その本案において当該義務の存否が判断の対象となるという事情の下では,上記懲戒処分の予防を目的とするいわゆる無名抗告訴訟としては,他に適当な争訟方法があるものとして,不適法である。 4 公立高等学校等の教職員が卒業式等の式典における国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱すること又はピアノ伴奏をすることを命ずる旨の校長の職務命令に基づく義務の不存在の確認を求める訴えは,次の(1),(2)など判示の事情の下では,上記職務命令の違反を理由とする行政処分以外の処遇上の不利益の予防を目的とする公法上の法律関係に関する確認の訴えとして,確認の利益がある。 (1) 当該地方公共団体では,教育委員会が各校長に対し上記職務命令の発出の必要性を基礎付ける事項等を示達した通達を踏まえ,多数の公立高等学校等の教職員が,毎年度2回以上の各式典に際し,上記職務命令を受けている。 (2) 上記職務命令に従わない教職員については,その違反及びその累積が懲戒処分の処分事由及び加重事由との評価を受けることに伴い,勤務成績の評価を通じた昇給等に係る不利益という行政処分以外の処遇上の不利益が反復継続的かつ累積加重的に発生し拡大する危険がある。 (1〜4につき補足意見がある。)
解説
事案
東京都教育委員会(都教委)の教育長は、平成15年10月23日、都立学校の各校長に通達(本件通達)を発した。内容は、入学式・卒業式等で教職員が国旗に向かって起立して国歌を斉唱し、斉唱はピアノ伴奏等で行うこと、職務命令に従わない教職員は服務上の責任を問われることを周知すること等である。各校長はこれを踏まえ、式典ごとに多数の教職員に起立斉唱・ピアノ伴奏の職務命令(本件職務命令)を発した。都教委は違反者に懲戒処分をし、その量定はおおむね1回目戒告、2・3回目減給、4回目以降停職で、免職処分の例はなかった。
都立学校の在職教職員らは、職務命令に基づく起立斉唱・伴奏義務の不存在確認(本件確認の訴え)と、不起立等を理由とする懲戒処分の差止め(本件差止めの訴え)を求めた。相手方は、旧行訴法下では都教委、改正行訴法下では東京都である。あわせて退職者を含む全員が国賠請求をした。
第1審は確認・差止めを認容した。原審は、本件通達に処分性を認め、通達の取消訴訟等と執行停止によれば足りるとして、両訴えを却下した。
争点
- 本件通達・本件職務命令の処分性
- 差止めの訴えの訴訟要件(処分の蓋然性、「重大な損害を生ずるおそれ」、補充性)の充足
- 差止めの訴えの本案要件(行訴法37条の4第5項)の充足
- 義務不存在確認の訴えの無名抗告訴訟としての適法性(補充性)
- 義務不存在確認の訴えの公法上の法律関係に関する確認の訴え(行訴法4条後段)としての確認の利益
判旨
上告棄却(訴えの一部は適法と判断したが、請求に理由がないため不利益変更禁止により棄却にとどめた)。
- 処分性:本件通達は行政組織内部の上級機関から下級機関への示達・命令にとどまる。本件職務命令も教職員個人の身分・勤務条件に係る権利義務に直接影響しない。いずれも処分性を否定した。
- 差止めの蓋然性:行訴法3条7項は、一定の処分がされる蓋然性を要求する。免職処分は蓋然性を欠き不適法とした。
- 重大な損害(行訴法37条の4第1項):処分後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けられるものではなく、処分前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済が困難な損害であることを要する。本件では懲戒処分が反復継続的・累積加重的にされる危険があり、これを肯定した。補充性も満たし、免職以外の懲戒処分の差止めの訴えは適法とした。
- 無名抗告訴訟としての確認の訴え:法定の差止めの訴えとの関係で補充性を要する。差止めの訴えを適法に提起でき、その本案で義務の存否が判断される以上、不適法とした。
- 当事者訴訟としての確認の訴え:行政処分以外の処遇上の不利益(昇給等)の予防を目的とする公法上の法律関係に関する確認の訴えとして、確認の利益を認め適法とした(東京都に対するもののみ)。
- 本案:職務命令は憲法19条に違反せず義務は存在する。戒告は裁量の範囲内である。減給・停職は個別具体的事情の主張立証がない。いずれの請求も理由がない。
判決文から
「処分がされた後に取消訴訟等を提起して執行停止の決定を受けることなどにより容易に救済を受けることができるものではなく,処分がされる前に差止めを命ずる方法によるのでなければ救済を受けることが困難なもの」
「重大な損害」の規範そのもの。答案で必ず書く
「国民の権利利益の実効的な救済及び司法と行政の権能の適切な均衡の双方の観点から,そのような判断と措置を事前に行わなければならないだけの救済の必要性がある場合であることを要する」
規範の根拠(事前救済の正当化)
「行政庁によって一定の処分がされる蓋然性があることが,救済の必要性を基礎付ける前提として必要となる。」
差止めの訴えの前提要件=処分の蓋然性
「行政組織の内部における上級行政機関である都教委から関係下級行政機関である都立学校の各校長に対する示達ないし命令にとどまり」
通達の処分性を否定した理由
「教職員個人の身分や勤務条件に係る権利義務に直接影響を及ぼすものではないから,抗告訴訟の対象となる行政処分には当たらないと解される。」
職務命令の処分性否定
「法定抗告訴訟である差止めの訴えとの関係で事前救済の争訟方法としての補充性の要件を欠き,他に適当な争訟方法があるものとして,不適法というべきである。」
無名抗告訴訟の補充性
「行政処分以外の処遇上の不利益の予防を目的とする公法上の法律関係に関する確認の訴えとしては,その目的に即した有効適切な争訟方法であるということができ,確認の利益を肯定することができるものというべきである。」
当事者訴訟としての確認の利益の肯定
「個々の事案ごとの具体的な事実関係の下で,当該処分をすることが当該行政庁の裁量権の範囲を超え又はその濫用となると認められることをいうものと解される。」
裁量処分の差止めの本案要件の意味
この解説は AI が作成しています。判決全文に基づいて書き、別の AI が全文と照合して確認していますが、誤りが残っている可能性があります。 判決文の引用は全文と一字一句照合したものだけを載せています。大事な点は判決全文で確かめてください。
