東京都国旗国歌訴訟(懲戒処分事件)
国歌不起立等への戒告処分は適法とし、戒告1回の処分歴のみを理由とする減給処分は重きに失し違法とした
出題:司法H28・予備H28
- 裁判所
- 最高裁判所第一小法廷
- 事件番号
- 平成23(行ツ)263等 懲戒処分取消等請求事件
- 裁判
- 判決・その他
- 判例集
- 集民 第239号253頁
- 参照法条
- (1,2につき)憲法15条2項,地方公務員法29条1項,地方公務員法30条,地方公務員法32条,学校教育法(平成18年法律第80号による改正前のもの)73条,学校教育法(平成19年法律第96号による改正前のもの)18条2号,学校教育法(平成19年法律第96号による改正前のもの)28条3項,学校教育法(平成19年法律第96号による改正前のもの)36条1号,学校教育法(平成19年法律第96号による改正前のもの)42条1号,学校教育法(平成19年法律第96号による改正前のもの)43条,国旗及び国歌に関する法律1条1項,国旗及び国歌に関する法律2条1項,学校教育法施行規則(平成19年文部科学省令第5号による改正前のもの)73条の10,学校教育法施行規則(平成19年文部科学省令第40号による改正前のもの)57条の2,高等学校学習指導要領(平成11年文部省告示第58号。平成21年文部科学省告示第38号による特例の適用前のもの)第4章第2C(1),高等学校学習指導要領(平成11年文部省告示第58号。平成21年文部科学省告示第38号による特例の適用前のもの)第3の3,盲学校,聾学校及び養護学校高等部学習指導要領(平成11年文部省告示第62号。平成19年文部科学省告示第46号による改正前のもの)第4章 (1につき)学校職員の給与に関する条例(昭和31年東京都条例第68号)24条の2第4項,学校職員の勤勉手当に関する規則(昭和54年東京都教育委員会規則第16号。平成18年東京都教育委員会規則第3号による改正前のもの)4条
判示事項・裁判要旨
裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)
判示事項
1 公立の高等学校又は養護学校の教職員が卒業式等の式典において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱すること又は国歌のピアノ伴奏を行うことを命ずる旨の校長の職務命令に従わなかったことを理由とする戒告処分が,裁量権の範囲を超え又はこれを濫用するものとして違法であるとはいえないとされた事例 2 公立養護学校の教職員が卒業式において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱することを命ずる旨の校長の職務命令に従わなかったことを理由とする減給処分が,裁量権の範囲を超えるものとして違法であるとされた事例
裁判要旨
1 公立の高等学校又は養護学校の教職員が,卒業式等の式典において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱すること又は国歌のピアノ伴奏を行うことを命ずる旨の校長の職務命令に従わず起立しなかったこと又は伴奏を拒否したことを理由に,教育委員会から戒告処分を受けた場合において,上記不起立又は伴奏拒否が当該教職員の歴史観ないし世界観等に起因するもので,積極的な妨害等の作為ではなく,物理的に式次第の遂行を妨げるものではなく,当該式典の進行に具体的にどの程度の支障や混乱をもたらしたかの客観的な評価が困難なものであったとしても,次の(1)〜(3)など判示の事情の下では,上記戒告処分は,同種の行為による懲戒処分等の処分歴の有無等にかかわらず,裁量権の範囲を超え又はこれを濫用するものとして違法であるとはいえない。 (1) 上記職務命令は,学校教育の目標や卒業式等の儀式的行事の意義,在り方等を定めた関係法令等の諸規定の趣旨に沿って,地方公務員の地位の性質及びその職務の公共性を踏まえ,生徒等への配慮を含め,教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに式典の円滑な進行を図るものであった。 (2) 上記不起立又は伴奏拒否は,当該式典における教職員による職務命令違反として,式典の秩序や雰囲気を一定程度損なう作用をもたらし,式典に参列する生徒への影響も伴うものであった。 (3) 戒告処分に伴う当該教職員に係る条例及び規則による給与上の不利益は,勤勉手当の1支給期間(半年間)の10%にとどまるものであった。 2 公立養護学校の教職員が,卒業式において国歌斉唱の際に国旗に向かって起立して斉唱することを命ずる旨の校長の職務命令に従わず起立しなかったことを理由に,教育委員会から,過去の懲戒処分の対象と同様の非違行為を再び行った場合には処分を加重するという方針の下に減給処分を受けた場合において,上記職務命令が生徒等への配慮を含め教育上の行事にふさわしい秩序の確保とともに式典の円滑な進行を図るものであり,上記不起立が当該式典における教職員による職務命令違反として式典の秩序や雰囲気を一定程度損なう作用をもたらし式典に参列する生徒への影響も伴うものであったとしても,次の(1)〜(3)など判示の事情の下では,上記減給処分は,減給の期間の長短及び割合の多寡にかかわらず,裁量権の範囲を超えるものとして違法である。 (1) 上記不起立は,当該教職員の歴史観ないし世界観等に起因するもので,積極的な妨害等の作為ではなく,物理的に式次第の遂行を妨げるものではなく,当該式典の進行に具体的にどの程度の支障や混乱をもたらしたかの客観的な評価が困難なものであった。 (2) 処分の加重の理由とされた過去の懲戒処分の対象は,入学式の際の服装等に関する校長の職務命令に違反した行為であって,積極的に式典の進行を妨害する行為ではなく,当該1回のみに限られており,上記不起立の前後における態度において特に処分の加重を根拠付けるべき事情もうかがわれない。 (3) 上記方針の下に,上記教育委員会の通達を踏まえて毎年度2回以上の卒業式や入学式等の式典のたびに不起立又はこれと同様の行為を理由とする懲戒処分が累積して加重されると短期間で反復継続的に不利益が拡大していくこととなる状況にあった。 (1につき補足意見及び反対意見,2につき補足意見及び意見がある。)
解説
事案
東京都教育委員会(都教委)の教育長は、都立高校・養護学校の各校長に通達を発した。内容は、入学式・卒業式等で教職員が国旗に向かって起立し国歌を斉唱すること、斉唱はピアノ伴奏等で行うこと、職務命令に従わない教職員は服務上の責任を問われる旨を周知することであった。
各校長は、教職員らに起立斉唱を、音楽科教員にはピアノ伴奏を命ずる職務命令を発した。教職員らは、「君が代」「日の丸」に否定的な歴史観・世界観等から、不起立・退席・式場不入場・伴奏拒否などをした。
都教委は、地方公務員法32条・33条違反を理由に懲戒処分をした。
- 同種の処分歴のない者らは戒告処分とした。戒告には、規則上、勤勉手当の1支給期間(半年間)10%減額が伴う。
- 養護学校の教職員1名は減給処分(給与1月・月額10分の1)とした。約2年前に入学式での服装等に関する職務命令違反で戒告1回を受けており、同様の非違行為の再犯は量定を加重するという方針によるものである。
教職員らは処分の取消しと国家賠償を求めた。原審は、職務命令は合憲としつつ、戒告・減給のいずれも裁量権の逸脱濫用として取り消した。
争点
- 起立斉唱・ピアノ伴奏を命ずる職務命令は憲法19条に違反するか
- 職務命令違反を理由とする戒告処分は、懲戒権者の裁量権の範囲の逸脱・濫用に当たるか
- 過去の処分歴を理由に戒告を超えて減給処分を選択することが許される場合の判断基準
判旨
職務命令の合憲性:本件職務命令は憲法19条に違反しない(最判平成23年6月6日等の趣旨に徴して明らか)。
懲戒処分の審査枠組み(神戸税関事件を踏襲):懲戒権者は、行為の原因・動機・性質・態様・結果・影響、行為前後の態度、処分歴、他の公務員・社会への影響など諸般の事情を考慮して、懲戒の要否と処分の選択を決める裁量権を有する。その判断は、社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を逸脱・濫用した場合に違法となる。
戒告処分:処分歴の有無等にかかわらず、基本的に裁量権の範囲内であり、適法である。
減給処分:不起立行為等に対し戒告を超えて減給を選択することが許されるのは、次の場合に限られる。
- 過去の処分歴や前後の態度等に鑑み、学校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から、当該処分を選択することの相当性を基礎付ける具体的な事情が認められること。
- 過去1回の不起立等による処分歴だけでは足りない。
本件の減給処分は、減給の期間・割合にかかわらず、重きに失し違法である。
判決文から
「その判断は,それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したと認められる場合に,違法となるものと解される」
神戸税関事件の社会観念審査を踏襲した部分
「本件職務命令の違反に対し懲戒処分の中で最も軽い戒告処分をすることが裁量権の範囲の逸脱又はその濫用に当たるとは解し難い。」
戒告処分を適法とした結論部分
「学校の規律や秩序の保持等の必要性と処分による不利益の内容との権衡の観点から当該処分を選択することの相当性を基礎付ける具体的な事情が認められる場合であることを要すると解すべきである。」
減給以上を選ぶ場合の比例原則的な規範
「例えば過去の1回の卒業式等における不起立行為等による懲戒処分の処分歴がある場合に,これのみをもって直ちにその相当性を基礎付けるには足りず,」
処分歴1回では加重を正当化できないとした点
「処分の選択が重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠き,上記減給処分は懲戒権者としての裁量権の範囲を超えるものとして違法の評価を免れない」
減給処分を違法とした結論
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