最判平成22年10月14日
当事者が主張していない予測困難な信義則の法律構成で判断する際に、釈明を怠った控訴審判決を違法とした事例
出題:司法R7・予備R7
- 裁判所
- 最高裁判所第一小法廷
- 事件番号
- 平成20(受)1590 雇用関係存在確認等請求事件
- 裁判
- 判決・破棄差戻
- 判例集
- 集民 第235号1頁
- 参照法条
- 民訴法149条,民法1条2項
判示事項・裁判要旨
裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)
判示事項
法人であるYから定年により職を解く旨の辞令を受けた職員であるXがYに対し雇用契約上の地位確認及び賃金等の支払を求める訴訟において,控訴審が,X,Yともに主張していない法律構成である信義則違反の点についてXに主張するか否かを明らかにするよう促すとともにYに十分な反論及び反証の機会を与える措置をとることなく,Yは定年退職の告知の時から1年を経過するまでは賃金支払義務との関係では信義則上定年退職の効果を主張することができないと判断したことに釈明権の行使を怠った違法があるとされた事例
裁判要旨
法人であるYから定年規程所定の65歳の定年により職を解く旨の辞令を受けた職員であるXが,Yとの間でXの定年を80歳とする旨の合意があったと主張して,Yに対し雇用契約上の地位確認及び賃金等の支払を求める訴訟において,次の(1),(2)のような訴訟の経過の下では,控訴審が,X,Yともに主張していない法律構成である信義則違反の点についてXに主張するか否かを明らかにするよう促すとともにYに十分な反論及び反証の機会を与える措置をとることなく,Yは定年退職の告知の時から1年を経過するまでは賃金支払義務との関係では信義則上定年規程による定年退職の効果を主張することができないと判断したことには,釈明権の行使を怠った違法がある。 (1) 第1審は,弁論準備手続期日において本件の争点が上記合意の存否である旨を確認し,口頭弁論期日におけるその結果の陳述を経た上,X本人尋問及び証人尋問を行い,上記合意があったとは認められないとしてXの請求を棄却する旨の判決をした。 (2) 控訴審は,第1回口頭弁論期日において口頭弁論を終結したところ,同期日において陳述された控訴理由もそれに対する答弁も,専ら上記合意の存否に関するものであった。
解説
事案
Yは愛知学泉大学を設置する学校法人で、Xはその教授である。Yの定年規程は教育職員の定年を満65歳としていたが、実際には70歳を超えて勤務する者も相当数いた。Xの採用前、Yの理事の1人はXに「定年は実質はなきに等しく、80歳くらいまで勤務可能」との趣旨を話していた。平成18年9月、学長がXに満65歳で定年退職となると伝え、平成19年3月31日、YはXに定年により職を解く旨の辞令を出した。
Xは、定年を80歳とする合意(本件合意)があったと主張し、地位確認と賃金支払を求めた。第1審は、弁論準備手続で争点が本件合意の存否であることを確認し、尋問を経て、合意を認めず請求を棄却した。控訴審は第1回口頭弁論期日で弁論を終結した。控訴理由も答弁も、専ら本件合意の存否に関するものだった。
ところが原審は、地位確認請求は棄却しつつ、賃金請求を一部認容した。理由は、Yには定年退職の1年前までに告知すべき信義則上の義務があり、告知から1年を経過するまでは、賃金支払義務との関係で信義則上定年退職の効果を主張できない、というものである。Yが上告受理申立てをした。
争点
- 当事者双方が主張していない法律構成(信義則違反)で判断する場合に、裁判所に釈明義務(民訴法149条)があるか
- 釈明権の不行使が上告審で違法となるのはどのような訴訟経過の下か
判旨
原判決中、上告人(Y)敗訴部分を破棄し、原審に差し戻した。
規範:
- 当事者双方が主張しておらず、従前の訴訟経過から予測困難な法律構成(本件では信義則違反)で判断しようとする場合、裁判所はまず適切に釈明権を行使しなければならない。
- 具体的には、一方当事者にその点を主張するか否かを明らかにするよう促し、相手方に十分な反論・反証の機会を与えたうえで判断すべきである。
- この措置を怠って判断すれば釈明権の行使を怠った違法となり、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反に当たる。
本件のあてはめ:
- 第1審・控訴審を通じて争点は本件合意の存否に絞られていた。
- 原審の法律構成は、①告知義務という信義則上の義務を認めたうえで、②告知から1年間は定年退職の効果を主張できないという法律効果を導くものであり、予測困難であった。
- よって原審の判断は違法である。
判決文から
「当事者双方とも,上告人が定年規程による定年退職の効果を主張することが信義則に反するか否かという点については主張していない。」
信義則違反は当事者の主張がない法律構成である点
「原審としては,適切に釈明権を行使して,被上告人に信義則違反の点について主張するか否かを明らかにするよう促すとともに,上告人に十分な反論及び反証の機会を与えた上で判断をすべきものである。」
釈明の内容(双方への手続保障)を示した規範部分
「従前の訴訟の経過等からは予測が困難であり,このような法律構成を採るのであれば,なおさら,その法律構成の適否を含め,上告人に十分な反論及び反証の機会を与えた上で判断をすべきものといわなければならない。」
予測困難性が釈明義務を強める要素となる点
「釈明権の行使を怠った違法があるといわざるを得ず,原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。」
釈明義務違反が破棄事由となる結論
この解説は AI が作成しています。判決全文に基づいて書き、別の AI が全文と照合して確認していますが、誤りが残っている可能性があります。 判決文の引用は全文と一字一句照合したものだけを載せています。大事な点は判決全文で確かめてください。
