最判平成20年4月25日
責任能力の前提となる精神障害等については、採用できない合理的事情がない限り、精神医学者の鑑定意見を十分に尊重すべきとした判決
出題:司法H22・司法H26・司法H27・司法H29・予備H23・予備H25・予備H30・予備R3
- 裁判所
- 最高裁判所第二小法廷
- 事件番号
- 平成18(あ)876 傷害致死被告事件
- 裁判
- 判決・破棄差戻
- 判例集
- 刑集 第62巻5号1559頁
- 参照法条
- (1,2につき)刑法39条
判示事項・裁判要旨
裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)
判示事項
1 責任能力判断の前提となる精神障害の有無及び程度並びにこれが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度について,精神医学者の鑑定意見等が証拠となっている場合における,裁判所の判断の在り方 2 統合失調症による幻覚妄想の強い影響下で行われた行為について,正常な判断能力を備えていたとうかがわせる事情があるからといって,そのことのみによって被告人が心神耗弱にとどまっていたと認めるのは困難とされた事例
裁判要旨
1 責任能力判断の前提となる生物学的要素である精神障害の有無及び程度並びにこれが心理学的要素に与えた影響の有無及び程度について,専門家たる精神医学者の意見が鑑定等として証拠となっている場合には,鑑定人の公正さや能力に疑いが生じたり,鑑定の前提条件に問題があったりするなど,これを採用し得ない合理的な事情が認められるのでない限り,裁判所は,その意見を十分に尊重して認定すべきである。 2 統合失調症の幻覚妄想の強い影響下で行われた本件傷害致死の行為(判文参照)について,それが犯罪であることを認識し,後に自首しているなど,一般には正常な判断能力を備えていたことをうかがわせる事情があるからといって,そのことのみによって,その行為当時,被告人が心神喪失ではなく心神耗弱にとどまっていたと認めることは困難である。
解説
事案
被告人は統合失調症にり患していた。かつての勤務先である塗装店の経営者(被害者)が自分をからかったり、「電話しろ」と言ったりする幻視・幻聴が頻繁に現れ、被告人は被害者にばかにされていると憤るようになった。犯行当日も同様の幻聴があり、被告人は被害者を二、三発殴って脅そうと考えて店に赴いた。被告人は被害者の顔面等を数発殴り、逃げた被害者を路上でさらに殴打し、倒れた被害者を「たぬき寝入り」と思って足で突くようにけった。通行人が来たため立ち去ったが、被害者は外傷性くも膜下出血で死亡した。被告人は翌日、新聞記事を見て怖くなり自首した。
鑑定意見は次のように分かれた。
- 捜査段階の簡易鑑定と、原審での医師の意見書は心神耗弱とした。
- 第1審の裁判所選任鑑定(坂口鑑定)と原審の裁判所選任鑑定(深津鑑定)は心神喪失とした。
第1審は坂口鑑定に依拠して無罪とした。原審は、坂口・深津両鑑定を採用せず、動機の了解可能性、犯罪であることの認識、自首などから心神耗弱にとどまるとして、懲役3年とした。
争点
- 責任能力判断の前提となる精神障害の有無・程度、及びそれが心理学的要素に与えた影響について、精神医学者の鑑定意見を裁判所はどう扱うべきか
- 統合失調症の幻覚妄想の強い影響下の行為について、犯罪であることの認識・記憶・自首など正常な判断能力をうかがわせる事情のみから心神耗弱にとどまると認定できるか
判旨
原判決を破棄し、東京高裁に差し戻した(刑訴法411条1号・3号、413条本文)。
規範(鑑定の扱い)
- 心神喪失・心神耗弱(刑法39条)に当たるかは法律判断であり、専ら裁判所に委ねられる。その前提となる生物学的・心理学的要素も、究極的には裁判所の評価に委ねられる。
- もっとも、生物学的要素である精神障害の有無・程度、及びそれが心理学的要素に与えた影響の有無・程度については、精神医学者の意見が鑑定等として証拠となっている場合、次のような「採用し得ない合理的な事情」が認められない限り、その意見を十分に尊重して認定すべきである。
- 鑑定人の公正さや能力に疑いが生じた
- 鑑定の前提条件に問題がある
本件への当てはめ
- 坂口・深津両鑑定は基本的に高い信用性を備えており、これを排斥した原判決の証拠評価は相当でない。
- 犯罪であることの認識や自首など、正常な判断能力をうかがわせる事情があるからといって、そのことのみで心神耗弱にとどまると認めることは困難である。
判決文から
「被告人の精神状態が刑法39条にいう心神喪失又は心神耗弱に該当するかどうかは法律判断であって専ら裁判所にゆだねられるべき問題であることはもとより」
責任能力判断は法律判断で裁判所が最終判断者
「鑑定人の公正さや能力に疑いが生じたり,鑑定の前提条件に問題があったりするなど,これを採用し得ない合理的な事情が認められるのでない限り,その意見を十分に尊重して認定すべきものというべきである。」
鑑定尊重の規範。答案・短答の核心
「被告人が犯行当時統合失調症にり患していたからといって,そのことだけで直ちに被告人が心神喪失の状態にあったとされるものではなく」
昭和59年決定の総合判定の枠組みを確認
「被告人が,本件行為が犯罪であることも認識していたり,記憶を保っていたりしても,これをもって,事理の弁識をなし得る能力を,実質を備えたものとして有していたと直ちに評価できるかは疑問である。」
形式的な違法性の認識だけでは弁識能力を肯定できない
この解説は AI が作成しています。判決全文に基づいて書き、別の AI が全文と照合して確認していますが、誤りが残っている可能性があります。 判決文の引用は全文と一字一句照合したものだけを載せています。大事な点は判決全文で確かめてください。
