SaySayLaw

クロロホルム事件

最決平成16年3月22日

失神させる第1行為の開始時に殺人の実行の着手を認め、早すぎた結果発生でも殺人既遂とした決定

刑法未遂・中止犯・不能犯構成要件該当性・因果関係故意・錯誤本試験で 9 問(短答 7・論文 2)

出題:司法H24・司法H25・司法H26・司法R1・司法R2・司法R3・司法R4・司法R6

裁判所
最高裁判所第一小法廷
事件番号
平成15(あ)1625 殺人,詐欺被告事件
裁判
決定・棄却
判例集
刑集 第58巻3号187頁
参照法条
刑法38条1項,刑法43条,刑法199条,刑法203条

判示事項・裁判要旨

裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)

判示事項

1 被害者を失神させた上自動車ごと海中に転落させてでき死させようとした場合につき被害者を失神させる行為を開始した時点で殺人罪の実行の着手があるとされた事例 2 いわゆる早過ぎた結果の発生と殺人既遂の成否

裁判要旨

1 クロロホルムを吸引させて失神させた被害者を自動車ごと海中に転落させてでき死させようとした場合において,クロロホルムを吸引させて失神させる行為が自動車ごと海中に転落させる行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠であり,失神させることに成功すれば,それ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存しなかったなど判示の事実関係の下では,クロロホルムを吸引させる行為を開始した時点で殺人罪の実行の着手があったと認められる。 2 クロロホルムを吸引させて被害者を失神させた上自動車ごと海中に転落させるという一連の殺人行為に着手して,その目的を遂げた場合には,犯人の認識と異なり,海中に転落させる前の時点でクロロホルムを吸引させる行為により被害者が死亡していたとしても,殺人の故意に欠けるところはなく,殺人の既遂となる。

判決全文(裁判所ウェブサイト)

解説

事案

被告人Aは、夫Vを事故死に見せかけて殺し、生命保険金をだまし取ろうと考えた。そこで被告人Bに殺害を依頼し、Bは実行犯3名を仲間に加えた。計画は次のとおりである。

  • 犯人の車をVの車に追突させる。
  • 示談交渉を装ってVを犯人の車の助手席に誘い入れる。
  • クロロホルムで失神させる。
  • V使用車ごと崖から川に転落させ、溺死させる(実行犯らは出発後、溺死させる場所を、車で1時間以上かかる当初の予定地から近くの場所に変更した)。

実行犯らは計画どおり追突し、Vを助手席に誘い入れた。そして、多量のクロロホルムを染み込ませたタオルをVの鼻口部に押し当て、腕を押さえるなどして吸引させ続け、昏倒させた(第1行為)。その後、約2km離れた岸壁までVを運び、到着したBとともに約2時間後、Vを運転席に乗せて車ごと海中に転落させた(第2行為)。

Vの死因は、溺水による窒息か、クロロホルム摂取による呼吸停止等か、特定できなかった。第2行為の前に第1行為で死亡していた可能性がある。実行犯らには、第1行為自体でVが死亡するとの認識はなかった。もっとも、第1行為は客観的には人を死に至らせる危険性が相当高い行為だった。

争点

  • 失神させてから溺死させる計画で、失神させる第1行為を開始した時点で殺人罪(刑法199条)の実行の着手(刑法43条)が認められるか
  • 行為者の認識より早い段階(第1行為)で死亡結果が生じた可能性がある場合(早すぎた結果の発生)に、殺人の故意(刑法38条1項)が否定されず殺人既遂となるか

判旨

上告棄却。被告人両名に殺人既遂の共同正犯が成立する。

着手の規範として、次の3点に照らし、第1行為が第2行為に密接な行為といえるかを判断した。

  • 第1行為が第2行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠であること
  • 第1行為に成功すれば、それ以降の殺害計画を遂行する上で障害となる特段の事情がないこと
  • 両行為が時間的場所的に近接していること

これらを満たして第1行為が密接な行為といえ、第1行為を開始した時点で殺人に至る客観的な危険性が明らかに認められるときは、その時点で殺人罪の実行の着手がある。

既遂の判断として、失神させてから車ごと海中に転落させるという一連の殺人行為に着手し、目的を遂げた以上、殺人の故意に欠けるところはなく殺人既遂となる。認識と異なり第2行為の前に第1行為で死亡していたとしても同じである。共謀した被告人両名も殺人既遂の共同正犯の罪責を負う。

判決文から

「第1行為は第2行為を確実かつ容易に行うために必要不可欠なものであったといえること」

密接性判断の第1要素(必要不可欠性)

「第1行為に成功した場合,それ以降の殺害計画を遂行する上で障害となるような特段の事情が存しなかったと認められること」

密接性判断の第2要素(障害の不存在)

「第1行為は第2行為に密接な行為であり,実行犯3名が第1行為を開始した時点で既に殺人に至る客観的な危険性が明らかに認められるから」

密接性と客観的危険性で着手を基礎づける核心部分

「たとえ,実行犯3名の認識と異なり,第2行為の前の時点でVが第1行為により死亡していたとしても,殺人の故意に欠けるところはなく」

早すぎた結果発生でも故意を否定しない結論

この解説は AI が作成しています。判決全文に基づいて書き、別の AI が全文と照合して確認していますが、誤りが残っている可能性があります。 判決文の引用は全文と一字一句照合したものだけを載せています。大事な点は判決全文で確かめてください。