SaySayLaw

関西水俣病訴訟(水俣病関西訴訟)

最判平成16年10月15日

水俣病の被害拡大防止のための規制権限を国と熊本県が行使しなかったことを国賠法上違法とし、除斥期間の起算点も示した判決

行政法行政裁量国家賠償法1条過失本試験で 4 問(短答 4・論文 0)

出題:司法H24・司法H26・司法R1・予備H29

裁判所
最高裁判所第二小法廷
事件番号
平成13(オ)1194 損害賠償,仮執行の原状回復等請求上告,同附帯上告事件
裁判
判決・その他
判例集
民集 第58巻7号1802頁
参照法条
国家賠償法1条1項,公共用水域の水質の保全に関する法律(昭和45年法律第108号による改正前のもの)1条,公共用水域の水質の保全に関する法律5条,工場排水等の規制に関する法律1条,工場排水等の規制に関する法律2条2項,工場排水等の規制に関する法律7条,工場排水等の規制に関する法律12条,旧熊本県漁業調整規則(昭和26年熊本県規則第31号。昭和40年熊本県規則第18号の2による廃止前のもの)1条,旧熊本県漁業調整規則(昭和26年熊本県規則第31号。昭和40年熊本県規則第18号の2による廃止前のもの)32条,民法724条

判示事項・裁判要旨

裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)

判示事項

1 国が水俣病による健康被害の拡大防止のためにいわゆる水質二法に基づく規制権限を行使しなかったことが国家賠償法1条1項の適用上違法となるとされた事例 2 熊本県が水俣病による健康被害の拡大防止のために同県の漁業調整規則に基づく規制権限を行使しなかったことが国家賠償法1条1項の適用上違法となるとされた事例 3 水俣病による健康被害につき加害行為の終了から相当期間を経過した時が民法724条後段所定の除斥期間の起算点となるとされた事例

裁判要旨

1 国が,昭和34年11月末の時点で,多数の水俣病患者が発生し,死亡者も相当数に上っていると認識していたこと,水俣病の原因物質がある種の有機水銀化合物であり,その排出源が特定の工場のアセトアルデヒド製造施設であることを高度のがい然性をもって認識し得る状況にあったこと,同工場の排水に含まれる微量の水銀の定量分析をすることが可能であったことなど判示の事情の下においては,同年12月末までに,水俣病による深刻な健康被害の拡大防止のために,公共用水域の水質の保全に関する法律及び工場排水等の規制に関する法律に基づいて,指定水域の指定,水質基準及び特定施設の定めをし,上記製造施設からの工場排水についての処理方法の改善,同施設の使用の一時停止その他必要な措置を執ることを命ずるなどの規制権限を行使しなかったことは,国家賠償法1条1項の適用上違法となる。 2 熊本県が,昭和34年11月末の時点で,多数の水俣病患者が発生し,死亡者も相当数に上っていると認識していたこと,水俣病の原因物質がある種の有機水銀化合物であり,その排出源が特定の工場のアセトアルデヒド製造施設であることを高度のがい然性をもって認識し得る状況にあったことなど判示の事情の下においては,同年12月末までに,水俣病による深刻な健康被害の拡大防止のために,旧熊本県漁業調整規則(昭和26年熊本県規則第31号。昭和40年熊本県規則第18号の2による廃止前のもの)に基づいて,上記製造施設からの工場排水につき除害に必要な設備の設置を命ずるなどの規制権限を行使しなかったことは,国家賠償法1条1項の適用上違法となる。 3 水俣病による健康被害につき,患者が水俣湾周辺地域から転居した時点が加害行為の終了時であること,水俣病患者の中には潜伏期間のあるいわゆる遅発性水俣病が存在すること,遅発性水俣病の患者においては水俣病の原因となる魚介類の摂取を中止してから4年以内にその症状が客観的に現れることなど判示の事情の下では,上記転居から4年を経過した時が民法724条後段所定の除斥期間の起算点となる。

判決全文(裁判所ウェブサイト)

解説

事案

水俣湾周辺に住み、同湾やその周辺海域の魚介類を食べた後に関西方面へ転居した水俣病患者(又はその承継人)が、国と熊本県を訴えた。国と県が水俣病の発生と被害拡大を防ぐための規制権限を行使しなかったとして、国家賠償法1条1項に基づき損害賠償を請求した事案である。

  • 水俣病はD社F工場のアセトアルデヒド製造施設で生成されたメチル水銀化合物が原因である。この物質が排水とともに流出し、魚介類に蓄積して発症した。
  • 昭和31年5月に公式発見された。昭和34年8月には国・県が把握していた患者数は71名、死亡者は28名であった。
  • 同年11月、食品衛生調査会が「主因はある種の有機水銀化合物」と答申した。工業技術院東京工業試験所は、排水中の微量水銀を定量分析できる技術を持っていた。
  • 同年12月に排水浄化装置が設置されたが、水銀の除去を目的とするものではなく、そのことは容易に分かった。
  • 水質二法は昭和34年3月に施行されていた。しかし指定水域の指定等がされたのは昭和44年である。
  • 原審は、昭和35年1月以降の権限不行使を違法として、国・県の責任を認めた。

争点

  • 国が水質二法(水質保全法・工場排水規制法)に基づく規制権限を行使しなかったことは、国賠法1条1項の適用上違法か
  • 熊本県知事が県漁業調整規則32条に基づく規制権限を行使しなかったことは、国賠法1条1項の適用上違法か(規則の目的との関係)
  • 昭和34年12月末以前に転居した患者について、違法な不作為と損害との因果関係が認められるか
  • 潜伏期間のある疾病による損害について、民法724条後段の除斥期間の起算点はいつか

判旨

規範:公務員による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨・目的や権限の性質等に照らし、具体的事情の下で、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、被害を受けた者との関係で国賠法1条1項の適用上違法となる。

  • 国:昭和34年12月末には、通商産業大臣は水質二法に基づき、D社に対して排水処理方法の改善や施設の使用の一時停止等を命じることができ、直ちに命じるべき状況にあった。したがって昭和35年1月以降の不行使は違法である。
  • 県:熊本県知事も国と同様の認識を有し、又は有し得た。昭和34年12月末までに県漁業調整規則32条の権限(除害設備の設置命令等)を行使すべき作為義務があり、昭和35年1月以降の不行使は違法である。
  • 因果関係:昭和34年12月末以前に転居した者については、違法な不作為と損害との因果関係は認められない(その部分の原判決を破棄)。
  • 除斥期間:損害の性質上、加害行為の終了から相当期間が経過した後に損害が発生する場合は、損害の全部又は一部が発生した時が起算点となる。本件では転居から4年を経過した時点が起算点である。

判決文から

「国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は,その権限を定めた法令の趣旨,目的や,その権限の性質等に照らし,具体的事情の下において,その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは」

規制権限不行使の違法性の判断基準

「この権限は,当該水域の水質の悪化にかかわりのある周辺住民の生命,健康の保護をその主要な目的の一つとして,適時にかつ適切に行使されるべきものである。」

法令の趣旨から適時・適切な行使を要求した部分

「同規則が,水産動植物の繁殖保護等を直接の目的とするものではあるが,それを摂取する者の健康の保持等をもその究極の目的とするものであると解されることからすれば」

漁業規則でも健康被害者への責任を肯定した根拠

「当該不法行為により発生する損害の性質上,加害行為が終了してから相当の期間が経過した後に損害が発生する場合には,当該損害の全部又は一部が発生した時が除斥期間の起算点となると解するのが相当である。」

除斥期間の起算点を損害発生時とした規範

この解説は AI が作成しています。判決全文に基づいて書き、別の AI が全文と照合して確認していますが、誤りが残っている可能性があります。 判決文の引用は全文と一字一句照合したものだけを載せています。大事な点は判決全文で確かめてください。