偽名履歴書事件
偽名で作成した履歴書・雇用契約書は、自己の顔写真を貼り責任を免れる意思がなくても有印私文書偽造罪に当たる
出題:司法H27・司法H30・司法R4・司法R8
- 裁判所
- 最高裁判所第一小法廷
- 事件番号
- 平成9(あ)1227 有印私文書偽造、同行使被告事件
- 裁判
- 決定・棄却
- 判例集
- 刑集 第53巻9号1495頁
- 参照法条
- 刑法159条1項,刑法161条1項
判示事項・裁判要旨
裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)
判示事項
虚偽の氏名等を記載した履歴書等を作成行使した行為が有印私文書偽造、同行使罪に当たるとされた事例
裁判要旨
虚偽の氏名等を記載した履歴書及び雇用契約書等を作成行使した行為は、たとえ自己の顔写真がはり付けられ、あるいは各文書から生ずる責任を免れようとする意思を有していなかったとしても、有印私文書偽造、同行使罪に当たる。
解説
事案
被告人は、Aという偽名を用いて就職しようと考えた。そこで、虚偽の氏名・生年月日・住所・経歴等を記載し、被告人自身の顔写真を貼り付け、押印したA名義の履歴書を作成した。また、虚偽の氏名等を記載し、押印したA名義の雇用契約書等も作成した。被告人はこれらを提出して行使した。
原審(東京高裁)は有印私文書偽造罪・同行使罪の成立を認めた。弁護人は上告し、憲法27条・31条違反のほか、被告人が特定の宗教団体に所属していることを理由に不当に不利益に扱われたとして憲法14条違反も主張した。最高裁はこれらをいずれも適法な上告理由に当たらないとしたうえで、職権で偽造罪の成否を判断した。
争点
- 偽名を用いて作成した履歴書・雇用契約書等について、名義人と作成者の人格の同一性にそごが生じるか(刑法159条1項の「偽造」に当たるか)
- 作成者自身の顔写真の貼付や、文書から生じる責任を免れる意思がないことは、偽造の成否に影響するか
判旨
結論:上告棄却。有印私文書偽造罪(刑法159条1項)・同行使罪(刑法161条1項)が成立する。
規範
- 私文書偽造の本質は、文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽る点にある(最判昭和59年2月17日、最決平成5年10月5日を引用)。
- 名義人が誰かは、文書の性質・機能等に照らして判断する。
あてはめ
- 偽名で作成された履歴書・雇用契約書等に表示された名義人は、被告人とは別人格の者であることが明らかである。
- したがって、名義人と作成者との人格の同一性にそごを生じさせたものであり、偽造に当たる。
- この判断は、作成者自身の顔写真が貼り付けられていても、また作成者が文書から生ずる責任を免れようとする意思を有していなくても変わらない。
判決文から
「私文書偽造の本質は、文書の名義人と作成者との間の人格の同一性を偽る点にあると解される」
偽造の定義(人格の同一性の偽り)の基本規範
「たとえ被告人の顔写真がはり付けられ、あるいは被告人が右各文書から生ずる責任を免れようとする意思を有していなかったとしても」
顔写真・責任回避意思の有無は結論を左右しない
「これらの文書に表示された名義人は、被告人とは別人格の者であることが明らかであるから、名義人と作成者との人格の同一性にそごを生じさせたものというべきである」
名義人=別人格と認定し偽造を肯定したあてはめ
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