最判平成元年9月14日
財産分与で自己に課税されないという動機が黙示的に表示され、意思表示の内容となりうるとして、要素の錯誤の余地を認めた事例
出題:司法H24・司法H30・司法R6
- 裁判所
- 最高裁判所第一小法廷
- 事件番号
- 昭和63(オ)385 建物所有権移転登記抹消登記手続請求事件
- 裁判
- 判決・破棄差戻
- 判例集
- 集民 第157号555頁
- 参照法条
- 民法95条,民法768条,所得税法33条
判示事項・裁判要旨
裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)
判示事項
協議離婚に伴う財産分与契約をした分与者の課税負担の錯誤に係る動機が意思表示の内容をなしたとされた事例
裁判要旨
協議離婚に伴い夫が自己の不動産全部を妻に譲渡する旨の財産分与契約をし、後日夫に二億円余の譲渡所得税が課されることが判明した場合において、右契約の当時、妻のみに課税されるものと誤解した夫が心配してこれを気遣う発言をし、妻も自己に課税されるものと理解していたなど判示の事実関係の下においては、他に特段の事情がない限り、夫の右課税負担の錯誤に係る動機は、妻に黙示的に表示されて意思表示の内容をなしたものというべきである。
解説
事案
夫Xは銀行勤務中に部下の女子職員と関係を持った。妻Yは離婚を決意し、昭和59年11月にXへ申し入れた。Xは職業上の身分を失うことを懸念して離婚に応じた。Yは、自宅建物に残って子を育てたいという離婚条件を示した。Xはこれに沿う形で、自己の特有財産である建物・敷地・地上の別建物(本件不動産)の全部を財産分与としてYに譲渡すると約した。その後、離婚届と財産分与を原因とする所有権移転登記がなされた。
契約の際、XはY側に課税されることを心配し、気遣う発言をした。一方、X自身に課税されることは話題にならなかった。離婚後、Xは上司の指摘で初めて自分に譲渡所得税が課されることを知り、その額は約2億2224万円と試算された。
Xは要素の錯誤による無効を主張し、建物の所有権移転登記の抹消を求めた。Yは錯誤を争い、仮に錯誤があってもXに重大な過失があると主張した。第一審・原審はXの請求を棄却した。
争点
- 財産分与契約における分与者の課税負担に関する動機の錯誤が、要素の錯誤(旧民法95条)となるか
- 動機の表示は明示的なものに限られるか、黙示的な表示でも法律行為の内容となりうるか
- 課税の有無が当事者間で話題にならなかった事実は、動機の表示を否定する根拠となるか
判旨
原判決破棄・差戻し。
- 規範:動機の錯誤が要素の錯誤として無効をきたすには、①その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となり、②錯誤がなければ表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められることを要する。動機が黙示的に表示されているときでも、法律行為の内容となることは妨げられない。
- あてはめ:Xは分与を受けるYに課税されることを気遣う発言をし、記録によればYも自己に課税されると理解していたことがうかがわれる。そうすると、他に特段の事情がない限り、Xは自己に課税されないことを当然の前提とし、その旨を黙示的に表示していたといえる。
- 目的物は居住建物を含む不動産の全部であり、課税額も極めて高額である。錯誤がなければ意思表示をしなかったと認める余地は十分にある。
- 要素の錯誤の成否とXの重大な過失の有無について、更に審理を尽くさせるため差し戻した。
判決文から
「意思表示の動機の錯誤が法律行為の要素の錯誤としてその無効をきたすためには、その動機が相手方に表示されて法律行為の内容となり、もし錯誤がなかったならば表意者がその意思表示をしなかったであろうと認められる場合であることを要する」
動機の錯誤の要件を確認した規範部分
「右動機が黙示的に表示されているときであっても、これが法律行為の内容となることを妨げるものではない。」
黙示の表示でもよいとした核心部分
「自己に課税されないことを当然の前提とし、かつ、その旨を黙示的には表示していたものといわざるをえない。」
黙示的表示を認めたあてはめ
「上告人に課税されることが両者間で話題にならなかったとの事実も、上告人に課税されないことが明示的には表示されなかったとの趣旨に解されるにとどまり、直ちに右判断の妨げになるものではない。」
原審の論理を退けた部分
この解説は AI が作成しています。判決全文に基づいて書き、別の AI が全文と照合して確認していますが、誤りが残っている可能性があります。 判決文の引用は全文と一字一句照合したものだけを載せています。大事な点は判決全文で確かめてください。
