長崎教師批判ビラ事件
公務員の職務行動への論評は、公益目的・前提事実の主要部分の真実性・論評の域内なら名誉毀損の違法性を欠くとした
出題:司法H25・司法R4
- 裁判所
- 最高裁判所第一小法廷
- 事件番号
- 昭和60(オ)1274 損害賠償等
- 裁判
- 判決・破棄自判
- 判例集
- 民集 第43巻12号2252頁
- 参照法条
- 民法709条,民法723条,刑法230条ノ2第1項,刑法230条ノ2第3項
判示事項・裁判要旨
裁判所ウェブサイトの判例情報より(原文のまま)
判示事項
公立小学校における通知表の交付をめぐる混乱についての批判、論評を主題とするビラの配布行為が名誉侵害としての違法性を欠くとされた事例
裁判要旨
公立小学校教師の氏名・住所・電話番号等を記載し、かつ、有害無能な教職員等の表現を用いた大量のビラを繁華街等で配布した場合において、右ビラの内容が、一般市民の間でも大きな関心事になつていた通知表の交付をめぐる混乱についての批判、論評を主題とする意見表明であつて、専ら公益を図る目的に出たものに当たらないとはいえず、その前提としている客観的事実の主要な点につき真実の証明があり、論評としての域を逸脱したものでないなど判示の事実関係の下においては、右配布行為は、名誉侵害としての違法性を欠く。
解説
事案
長崎市内の公立小学校では、通知表の様式と評定記載方法をめぐって論争が続いていた。校長会案に反対する教師らが通知表を校長の指示どおりに記入せず、決裁を得られないため児童に交付しない事態が生じ、一般市民の間でも大きな関心事になっていた。
教育問題について言論活動をしていたYは、これを組合の指示による抗争と考えた。そこで、実体のない団体の名義で、交付をめぐる混乱の経過等を詳しく記述したビラ約5000枚を作成した。ビラには「有害無能な教職員」「お粗末教育」などの表現と、「通知表問題でわかった有害無能な教職員の一覧表」として教師X らの勤務校・担任クラス・氏名・年齢・住所・電話番号が載っていた。Yはこれを下校時の児童への手渡し、校区内家庭への投函、繁華街での配布によって配った。
その後、Xらの中には深夜の非難電話・無言電話、匿名の葉書、右翼団体の宣伝カーによる氏名連呼などを受けた者がおり、他の者も同様の攻撃を恐れて落ち着かない日々を送った。Xらは慰謝料と謝罪広告を請求した。原審は名誉毀損を認め、慰謝料各5万円と謝罪広告を認容した。
争点
- 公務員の地位における行動に対する批判・論評が名誉侵害の不法行為として違法性を欠くのはどのような場合か
- 本件ビラの配布が公益目的・前提事実の真実性・論評の域の逸脱の有無の点で違法性を欠くか
- 氏名・住所・電話番号等の記載とビラの大量配布による私生活の平穏等の人格的利益の侵害について、名誉侵害とは別に不法行為責任が成立するか
判旨
規範:公共の利害に関する事項について自由に批判・論評を行うことは、表現の自由の行使として尊重される。対象が公務員の地位における行動である場合、批判等により当該公務員の社会的評価が低下することがあっても、次の要件を満たせば名誉侵害の不法行為の違法性を欠く。
- 目的が専ら公益を図るものであること
- 前提としている事実が主要な点において真実であることの証明があること
- 人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したものでないこと
ビラの作成配布も、このような表現行為として保護される。
結論
- 本件ビラは、通知表交付をめぐる混乱という公共の利害に関する事項についての批判・論評を主題とする意見表明である。上記要件を満たすので、名誉侵害の違法性を欠く。したがって謝罪広告請求は棄却。
- 他方、氏名・住所・電話番号等を記載したビラの大量配布により、私生活の平穏などの人格的利益が違法に侵害された。Yには予見または予見しなかった過失があるので、Yはこの点で不法行為責任を負う。慰謝料は各2万円に減額された。
判決文から
「公共の利害に関する事項について自由に批判、論評を行うことは、もとより表現の自由の行使として尊重されるべきものであり」
論評の自由を表現の自由として位置づけた出発点
「その目的が専ら公益を図るものであり、かつ、その前提としている事実が主要な点において真実であることの証明があったときは、人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したものでない限り、名誉侵害の不法行為の違法性を欠くものというべきである。」
論評型名誉毀損の免責要件(答案に書く規範)
「これに起因する結果につき人格的利益の侵害という観点から別途の不法行為責任を問う余地のあるのは格別、それ自体としては、被上告人らの社会的評価に直接かかわるものではなく」
住所等の記載を名誉と別の人格的利益の問題と整理
「被上告人らは上告人の本件配布行為に起因して私生活の平穏などの人格的利益を違法に侵害されたものというべきであり、上告人はこれにつき不法行為責任を免れないといわざるを得ない。」
名誉毀損否定でも私生活の平穏侵害で責任肯定
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